KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

「野田俊作の補正項」をレビューする:無免許ということ

2025年8月25日(月)

思うところあって野田先生のブログ「野田俊作の補正項」をレビューしている。このブログは野田俊作顕彰財団(AIJ)によって保存、公開されている。

> 「野田俊作の補正項」は、2001年1月1日から2018年2月7日まで野田俊作が毎日書いていたWeb日記です。旧・野田俊作事務所のサーバに掲載されていましたが、このたび保存のため、AIJで管理するサーバに収録いたしました。

https://adler.or.jp/%E9%87%8E%E7%94%B0%E4%BF%8A%E4%BD%9C/%E8%A3%9C%E6%AD%A3%E9%A0%85%E3%81%94%E6%A1%88%E5%86%85

膨大な分量のテキストデータだが、キーワード検索できるので、当時のことを再考する資料として貴重なものだ。

野田先生は2018年2月に脳悪性リンパ腫が見つかり、2月7日が最後のブログとなっている。その後一時回復し、2019年6月10日に米子で中国地方会があったときに参加している(写真1)。さらに10月20日に幕張メッセでアドラー心理学会関東地方区の大会があったときにも参加している(写真2)。その後、2020年12月3日に亡くなられた。

***

そのブログをぼんやりとした目的のためにレビューしているのだが、ちょいちょい興味深い話題が出てくる。一例で、私が野田先生に『アドラー実践講義:幸せに生きる』を贈ったときのことをこのように書いている。

> 2014年12月25日(木)

> アドラー心理学ブームで、私も本を書いた方がいいのかなと思っていないこともないのだが、もうちょっと熱が冷めてからの方がいいように思っている。仏さまと相談して、「ゴー!」が出たら一気に書こう。もっとも、概論書は書く気はない。向後千春さんが『アドラー実践講義』(技術評論社)という本を最近書かれて、贈呈してくださった。基礎理論について軽やかに書いてくださっているので、それがあるのでもう概論書はいいだろう。書くとしたら、理論的にも思想的にも技法的にももっと深いところを書きたいので、そんなにわかりやすい本にならないだろう。これまでに論文に書いたことをまとめて、もっと深いところを考えるような本だ。冗談に、「これから書き始めて、生涯書き続けて、最後は27巻の途中で寿命が尽きるんですよ」と言っている。書名はもう決まっているし、出版社も決めている。ただ、いますぐは書かない。

> 向後さんの本についてだけれど、以前に『コミックでわかるアドラー心理学』(中経出版)という本を贈呈していただいたが、マンガを読む能力がないので、文章の部分だけ読んで、まあまあねと思っていた。今回の『アドラー実践講義』は、それに較べるとはるかによく書けている。ただ、残念なことに、向後さんは「無免許運転」なんだよね。こんなことにこだわるのはおかしいのかもしれないけれど、アドラー心理学はドイツの学問で、中世ドイツのマイスター制度の伝統を受け継いでいて、厳格に言うならばだが、師匠から「教えてもいいよ」という許可をもらわないと、教えてはいけないことになっている。向後さんは、いまどきのアメリカ風のセンスの大学の先生だから、そういうことにはこだわらないのかもしれない。教えておられる内容は正しいと私も思うので、それでいいんじゃないかという考え方もあるが、私はやっぱり抵抗がある。多くの学会認定有資格者も抵抗があるんじゃないかなあ、どうなんだろうなあ。

> 日本の場合は、日本アドラー心理学会が認定したなんらかの資格を持っておれば、マイスターだと考えることにしている。向後さんは、たくさんの講座に出てくださったが、資格認定のための講座に出ておられない。「カウンセラー養成講座」とまでは言わないので、せめて「『パセージ』リーダー養成講座」でも受けていただけると嬉しいのだが。そのためには、お忙しいでしょうが、もう一度『パセージ』に出ていただいて、再来年の1月などにどうですか? そうすればマイスターだと、私も認定するし学会も認定するし国際アドラー心理学会連合も認定するから、問題はまったくなくなる。変なことにこだわっているのかな。でも、医学の世界では、認定医とか専門医とか指導医とかを持っていないと働けなくなってきているので、いまでも通用する感覚だと思っているんだがなあ。それはそれとして、『アドラー実践講義』は、私的には良い本だと思っている。公的には、つまり学会認定指導者としては、ノーコメントだが。なにしろ、無免許の名ドライバーなんだから、公的には評価のしようがない。

***

「これまでに論文に書いたことをまとめて、もっと深いところを考えるような本だ。」と野田先生は書いているが、この本は結果として出なかった。どこかに原稿があるのかもしれないけれども、多分ないだろう。野田先生が主に『アドレリアン』誌に発表された論文をまとめて本の形にするのは、彼の弟子を自認する人がやるべき仕事として残っているような気がする。

ちなみにここで「無免許」なので免許とってほしいと言われた私はその後、野田先生直々のパセージリーダー養成講座を大阪で受講し、合格証をいただいている。ここまでラブコールを受け、それに応えた私だったけれども、早稲田大学の仕事もかなり忙しく、それ以上力を割くのは無理だった。