娘が歩き始めた。
——そりゃ、おめでとう。いくつになったんだっけ?
一歳と五ヶ月になる。
——ん、ちょっと遅いかな。
いや、かなり遅い。母子手帳に、90%の子供がある行動をできるようになるのは何歳何ヶ月かという発達段階の一覧表があるんだが、もう99%の子供が歩いている時期だ。
——まあ、いつかは歩くんだから心配ないよ。
とはいってもね。やはり、ああいう表があると気になるもんだよ。親心というものだ。だから機会を見ては「あんよ」の練習をさせようとしたりして。
——君、本当に心理学者?
自分の子供に関しては、そういうことは関係ないんだね。先輩からは「子供ができたからといって急に発達心理学にのめり込まないように」とくぎをさされていることでもある。
——私だったら、さっそく観察対象にするんだが。双子だったら最高だね。
それはともかく、歩き始めたと思ったら、もうすたすた歩いているんだね。まるで「昔から歩いてます」みたいな感じでね。なんだか可笑しいよ。これがレディネスというやつかなあ、と感心したりして。
——そう。人間は何かができるようになる条件が整えば、簡単にやってのけるのだ。
それは突然できたように見えるんだけど、実は気がつかないところで着々と準備をしてきたんだよなあ。
——なんだか暗示的だね。