- 作者: 吉田文,中原淳,田口真奈
- 出版社/メーカー: 東京電機大学出版局
- 発売日: 2005/03
- メディア: 単行本
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出版社より献本いただきました。ありがとうございます。
電子掲示板を使ってディスカッションを主体とした学習を行うためには、掲示板が常に活気のある状態である必要がある。しかし、実際には掲示板の書き込みが思ったほど延びないことが多く、この問題をどう解決するかについて、iii onlineのチームが頭を悩ませる日々が続いた。……いくつかの試行錯誤の中で、最もうまくいったのが、「さくらモデル」である。これは、専門のモデレータをおくのではなく、参加者の中で意識が高い人に個別にお願いをして、準モデレータ的な役割をしてもらうというものである。
「3ない」とは「金ない、人ない、時間ない」ということである。法人化し予算執行が厳しく査定される国立大はもちろんのこと、ほとんどの私立大学も、eラーニングに潤沢な経費を投入できる状況にはない。……また、大学教員1人でeラーニングのためのコンテンツを効率的に作成したり、システムの保守を行ったりすることは難しい。効果的なeラーニング授業を継続的に提供するには、コースを分析、設計、開発、実施、評価するインストラクショナル・デザイナや、メディア・スペシャリスト、さらにコースの運用を管理する人材が求められるが、高等教育の現場にこのような専門家はほとんど存在しない。
どのようなタイプの学生にとっても共通するのは、モチベーション維持や学習進捗管理のためのメンタリングが重要であるという点である。いくらリソースが準備されていても、孤独な学習環境で自学自習できる学生はごくわずかである。学習者のタイプを知り、それに応じたメンタリングを実施しなくてはならない。
東京大学、玉川大学、青山学院大学、佐賀大学、東北大学でのeラーニング実践を紹介した本だ。取り上げた5つのケースは、国立大学/私立大学、都市部/地方、学部教育/大学院教育という軸でさまざまにクロスしており、日本で「実働」している大学のeラーニングの実態を検討し、未来を展望するのに絶好の材料を提供している。とりわけ、「技術・コスト・教育効果」という地に足のついた視点を一貫して取ることによって、eラーニングを単なる流行現象としてではなく、大学教育の根底を変える原動力として分析しているのが特徴。さらに、先を進んでいるアメリカのeラーニングの最新の状況を伝える章もあり、日本のシステムとどこが違うのかが一目瞭然。
この本の書評を依頼されているので、さらに詳しくはそちらで書く予定。