KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

村瀬嘉代子『統合的心理療法の考え方』

統合的心理療法の考え方―心理療法の基礎となるもの

統合的心理療法の考え方―心理療法の基礎となるもの

治療構造とは、治療過程に基本的に必要な安定を保証しようとして設けられる枠である。それは、心理療法の行われる場所、時間(頻度と一セッションの所要時間)、治療方法、料金などの外的構造と治療契約、秘密保持、各種の「制限」といった内的構造から成り立っている。

臨床心理学は次のような主要特質を備えている(村瀬、1991)。(1)対象の広さ、(2)実践の学(心の働きや行動の改善にとって実際に役立つ心理学でなければ価値がない)、(3)技術の学(実証性が求められる技術の学である一方で、心理臨床家の人間観や人間性といった技術とは異質の要素が重要な役割を演じる点がある学問)である。

以下に記すのは、本書を通じて表現した統合的心理療法の特質である。

  • 2)事実をまず大切に、綿密で的確な観察を行い、気づくことができるように。この場合に事実とは、客観的事実はもちろん、クライエントが語る主観的事実をも大切に扱う。
  • 3)技法を用いる場合、それが治療者の好みや関心から援用されるのではなく、クライエントについての的確な理解のもとに、クライエントがそれを必要としているのか、治療的に有効か、その技法が治療過程の中に浮き上がらずにしっくりとけ込むことができる自然さをもちうるのか、等について検討する。
  • 5)心理療法を行うに際して、自己完結性に固執しない。何を目的にとのような方法でどこまで進めるか、については原則としてクライエントと共有しながら進める。
  • 7)心理療法を行う場に、治療的精神風土の醸成を心懸ける。
  • 8)統合的心理療法とは要約すると、
    • (1)個別的、多面的なアプローチを行う。クライエントのパーソナリティや症状、問題の性質に応じて、理論や技法をふさわしく組み合わせて用いる。
    • (2)クライエントの回復の段階、発達・変容につれてかかわり方(理論や技法の用い方)を変容させていく。
    • (3)チームワーク、機関の連携、多領域にわたる協同的かかわりをも必要に応じて行う。
    • (4)治療者は矛盾した状況、不確定な状況に耐えて、知性と感性のバランスを維持するようにありたい、治療者自身が常に新たな知見の吸収蓄積に努め、より高次の統合を求めていること。

著者の博士論文を中核に、さまざまな論文、講演録を加えて、さらに加筆した本。そのためか各章間のつながりはあまりなく、章が変わるごとに雰囲気ががらっと変わる。それでも著者が「統合的」ということばで主張したいことは端々から伝わってくる。

上で引用した部分は、それらがこのまま教育工学という分野でもあてはまるのではないかと私が感じたところである。「臨床教育工学」というまだ聞いたことのないようなタームを先出しして、私が構想していることに深く関わっている。著者は臨床心理学という分野で研究方法論にこだわって仕事をしている。それがとても参考になる。